この記事でわかること
- 貸したくないという判断が、制度のうえでも合理的だと言える理由
- そもそも金融機関の承諾なしには貸せないこと、貸すと控除が止まること
- 貸さない場合に残る「売る」と「空き家」を、実際の金額で比べた結果
転勤が決まった。人に貸せば家賃が入ると言われたが、気が進まない。他人が住むこと、戻れなくなること、何かあったときに遠くから対応できないこと。うまく説明できないが、貸したくない。
その判断は感情の問題ではありません。制度と費用の両面から見て、合理的な根拠があります。
そもそも住宅ローンで買った家は、金融機関に無断で貸すと契約違反になります。手続きを踏んで貸せたとしても、住宅ローン控除は止まります。退去時の修繕費は、経年劣化の分まで貸主が負担します。
この記事では、貸したくないと感じる理由を1つずつ制度に照らして確かめ、そのうえで残る選択肢を実際の金額で比べます。
売主貸せば家賃が入ると言われるんですが、どうしても気が進まなくて…
編集部その感覚は正しいことが多いです。理由を1つずつ確かめていきましょう。制度の面でも引っかかる点がいくつもあります。
そもそも、金融機関の承諾なしには貸せない
住宅ローンは自分が住むための融資

ここが出発点です。住宅ローンは、借りた本人がその家に住むことを前提にした融資です。金利が低いのはそのためです。住まなくなって人に貸すと、前提が崩れます。
住宅金融支援機構は、財形住宅融資について次のように明記しています。
無断で融資住宅を知人に賃貸したり、融資住宅にお住みにならないと契約に違反することとなり、融資金の全額を一括してお返しいただくこととなります。
一括返済です。残債が2,000万円あれば、2,000万円を一度に返すことになります。
この条項が実際に発動するかどうかは別として、契約上そう書かれている以上、黙って貸すのは金融機関との約束を破る行為です。売却時には抵当権の抹消で金融機関とやり取りしますし、確定申告で不動産所得を申告すれば記録も残ります。
転勤なら「留守管理」という手続きがある
やむを得ない事情がある場合の道は用意されています。同じく住宅金融支援機構の説明です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 制度の名称 | 留守管理 |
| 対象 | 転勤・転職・長期療養などで家族全員が一時的に住めない場合 |
| 必要なこと | 住宅を管理する人(管理人)を選任する |
| 手続き | 事前に返済中の金融機関へ申し出る |
| 期間 | 3年以内。超える場合は金融機関に相談 |
重要なのは「事前に」という点と、「3年以内」という点です。黙って貸すことはできませんし、期間にも上限があります。
これは財形住宅融資についての規定です。民間の住宅ローンでも、自己居住が前提であることは共通していますが、扱いは金融機関ごとに違います。貸すと決める前に、借りている金融機関に確認することになります。
売主黙って貸している人もいると聞きますが…
編集部契約違反です。発覚すれば一括返済を求められます。転勤なら正規の手続きがあるので、黙って進める理由がありません。
貸すと住宅ローン控除が止まる
転勤で住んでいないと受けられない
住宅ローン控除は、自分がその家に住んでいることが条件です。人に貸せば、当然ながら自分は住んでいません。
住宅金融支援機構は、留守管理について次のように書いています。
留守管理期間中は、所得税の税額控除(住宅借入金等特別控除)の対象外になります。そのため、税額控除を受けるのに必要な「融資額残高証明書」は送付されません。
証明書が届かないので、そもそも申告できません。
売主家賃が入るなら、控除がなくなっても得なのでは?
編集部それは家賃しだいです。控除20万円が消えて、家賃から諸費用を引いた残りが20万円を超えないなら、貸すことで手取りは減ります。
持ち家を貸すといくら失うか?
| 年間の控除額 | 3年間で失う額 | 5年間で失う額 |
|---|---|---|
| 15万円 | 45万円 | 75万円 |
| 20万円 | 60万円 | 100万円 |
| 25万円 | 75万円 | 125万円 |
控除額はご自身の借入残高と控除率で変わります。家賃収入から、この失う分を引いて考える必要があります。年間の家賃が120万円でも、控除20万円が消えるなら実質は100万円です。
単身赴任なら持ち家の控除は止まらない
家族が住み続けるなら話は別です。生計を一にする親族が引き続きその家に住んでおり、事情が解消したあとは共に住むと認められる場合、控除は継続します。
家族を連れていくかどうかで、扱いが分かれます。
退去時の修繕費は、貸主が負担する部分が大きい
経年劣化は貸主の負担
「借りた人が汚したら、借りた人が直す」と考えている方が多いのですが、実際の線引きは違います。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」はこう定めています。
| 区分 | 内容 | 負担する人 |
|---|---|---|
| 経年変化 | 建物・設備の自然な劣化 | 貸主 |
| 通常損耗 | 普通に住んでいて生じる傷み | 貸主 |
| 故意・過失による損耗 | 不注意で壊した、こぼした染み | 借主 |
| 通常の使用を超える使用 | 用法違反にあたる使い方 | 借主 |
日焼けした壁紙、家具を置いた床のへこみ、画鋲の穴。こうした「普通に暮らしていれば起きること」は貸主の負担です。借主が支払った家賃に、その分が含まれているという考え方です。
借主の負担分も、年数が経つほど減る
さらに、借主に負担義務がある場合でも、金額は満額にはなりません。ガイドラインは、経過年数を考慮して年数が多いほど借主の負担割合を減少させる考え方を採っています。
入居から年数が経つほど、修繕費の多くは貸主に回ります。貸している期間が長いほど、退去時の持ち出しは大きくなります。
売主借りた人が直してくれるものだと思っていました。
編集部壊した部分だけです。日焼けや家具のへこみは貸主が直します。5年住まれた部屋なら、壁紙は全面張り替えになることが多く、その大半が貸主負担です。
転勤から帰任しても、持ち家にそのままでは戻れない
普通の契約では、期限が来ても出ていってもらえない
借地借家法では、貸主から更新を断るには正当事由が必要とされています。借主を守るための仕組みです。「自分が帰ってくるので出てください」という理由だけでは、通らないことがあります。
3年で戻るつもりが、入居者が住み続ければ戻れません。自分の家なのに、自分が住めない状態になります。
期間を区切るなら定期借家契約
これを避ける手段が定期借家契約です。国土交通省の説明では、契約で定めた期間が満了することにより、更新されることなく、確定的に賃貸借契約が終了する制度とされています。
ただし、入居者から見れば「期限が来たら必ず出ていく」条件です。借り手が限られ、家賃は相場より下がりやすくなります。帰任の時期が読めない場合は、期間の設定そのものが難しくなります。
実際にいくら出ていくのか?
退去のたびにかかる費用を、金額の目安で並べます。3LDKの一戸建てを想定しています。
| 項目 | 費用の目安 | 主に負担する人 |
|---|---|---|
| 壁紙の張り替え(全室) | 15万〜30万円 | 日焼け・家具跡は貸主 |
| 床のワックス・補修 | 3万〜10万円 | 通常の摩耗は貸主 |
| ハウスクリーニング | 5万〜10万円 | 契約による |
| 設備の交換(給湯器など) | 10万〜25万円 | 貸主 |
| 入居者募集の広告料 | 家賃1か月分 | 貸主 |
入居者が入れ替わるたびに、これだけの出費が発生します。家賃10万円の物件なら、1回の入退去で家賃3〜6か月分が消える計算です。金額は地域と物件の状態で変わります。
転勤先から持ち家を管理するということ
自分では対応できない
転勤先から、給湯器の故障や雨漏り、入居者からの連絡に対応することはできません。管理会社に委託することになります。委託料は家賃の5%前後が一般的です。
ただし、費用より重いのは判断です。修繕が必要になったとき、見積もりを見て決めるのは所有者です。現物を見られない状態で、数十万円の判断を求められます。
空室のあいだも返済は続く
入居者が退去してから次が決まるまで、家賃はゼロです。その間もローンの返済、固定資産税、管理費は同じように出ていきます。
2か月空けば、家賃10万円の物件で20万円の収入減です。先ほどの原状回復費と合わせると、1回の入退去で50万円前後が飛ぶことも珍しくありません。
売主そこまでは考えていませんでした。
編集部家賃収入という言葉だけ見ると、毎月お金が入ってくるように思えます。実際は入退去のたびにまとまった支出があり、それを何年で回収できるかという話になります。
転勤で持ち家を貸したくない理由をまとめると
| 貸したくない理由 | 制度・費用のうえでの裏づけ |
|---|---|
| 勝手に貸していいのか不安 | 無断賃貸は契約違反。一括返済を求められる |
| 手続きが面倒そう | 金融機関への事前申出、期間は3年以内が目安 |
| 損しそうな気がする | 住宅ローン控除が止まる。年15万〜25万円 |
| 汚されたくない | 経年劣化と通常損耗の修繕費は貸主負担 |
| 戻れなくなりそう | 普通借家では正当事由がないと更新を断れない |
| 遠くから対応できない | 管理会社への委託が前提。家賃の5%程度 |
6つとも、気のせいではありませんでした。貸すことを勧める記事の多くは、家賃収入という入りの側だけを見ています。出ていく側を並べると、判断は変わります。
それでも貸したほうがよいのはどんな場合か?
公平に書きます。次の条件が揃うなら、貸す判断にも合理性があります。
- 帰任時期がはっきり決まっており、3年以内である
- 金融機関から留守管理などの承諾を得られる
- 定期借家契約で、帰任時期に合わせて期間を設定できる
- 家賃がローン返済額を明確に上回る
- その地域に賃貸需要があり、空室が長引かない
逆に言えば、1つでも欠けるなら、貸すことの旨みは薄くなります。とくに帰任時期が読めない場合、期間を区切れないため定期借家が使いにくくなります。
もう1つ、見落とされやすい条件があります。家賃がローン返済額を「明確に」上回ることです。同額では足りません。管理委託料、固定資産税、火災保険、原状回復の積立、そして消える控除。これらを足した分だけ上回っていなければ、持ち出しになります。
貸さないなら、残るのは「売る」か「空き家」
空き家のまま置いた場合の年間費用

| 項目 | 年間の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 住宅ローン返済 | −120万円 | 月10万円の場合 |
| 固定資産税・都市計画税 | −12万円 | |
| 火災保険 | −4万円 | 空き家は割高になる |
| 管理・見回り | −6万円〜12万円 | 自分で行けない場合は管理サービス |
| 年間の支出 | 142万円〜148万円 | 収入はゼロ |
マンションの場合は管理費と修繕積立金がこれに加わります。3年で430万円、5年で720万円。誰も住まない家に払う金額としては小さくありません。
ただし、住宅ローン控除は住まなくなった時点で止まるため、空き家にしても貸しても、そこは変わりません。空き家の維持にかかる費用は誰も住んでいない家にかかる維持費で詳しく扱っています。
持ち家を売った場合との比較
売れば、ローンの返済も固定資産税も止まります。手元に残る金額は、売却代金から残債と諸費用を引いたものです。
| 選択 | 3年間の収支 | 5年間の収支 |
|---|---|---|
| 空き家のまま | −430万円前後 | −720万円前後 |
| 貸す(満室でトントンの場合) | 控除が止まる分だけマイナス | 同左 |
| 売る | 以後の支出はゼロ | 以後の支出はゼロ |
金額は物件によって変わりますので、ご自身の数字で置き換えてください。
迷っている間に、持ち家の価値はどれだけ落ちるか?
全国の実際の成約価格で見る
「とりあえず貸して様子を見る」という判断をする前に、その間に何が起きるかを見ておきます。国土交通省が公表している取引価格情報から、築年数帯ごとの成約価格の中央値を出しました。総取引75万件を集計しています。
| 築年数 | 一戸建て | 新築時比 | 中古マンション | 新築時比 |
|---|---|---|---|---|
| 新築〜築5年 | 3,700万円 | — | 4,500万円 | — |
| 築5〜10年 | 3,500万円 | −5.4% | 4,200万円 | −6.7% |
| 築10〜20年 | 2,900万円 | −21.6% | 3,600万円 | −20.0% |
| 築20〜30年 | 2,200万円 | −40.5% | 2,700万円 | −40.0% |
| 築30〜40年 | 1,600万円 | −56.8% | 1,400万円 | −68.9% |
転勤が3年で終われば、下落はわずかです。しかし転勤が繰り返されて10年になると、価値は2割落ちます。20年なら4割です。
この数字の読み方
市場全体の中央値であって、個別の家の値動きを保証するものではありません。集計期間中は全国的に価格が上昇していたため、その分が含まれています。実際の下落はもう少し大きい可能性があります。
お住まいの市区町村ごとの数字は一戸建ての売却相場で確認できます。
売主3年のつもりが、次の転勤が来たらどうなるんでしょうか。
編集部そこが判断の分かれ目です。転勤が1回で終わるなら空き家でも耐えられます。繰り返す職種なら、最初の1回で決着をつけたほうが損は小さくなります。
転勤が繰り返される職種かどうかで、答えが変わる
転勤が1回で終わるなら、耐える選択もある
転勤が今回1回きりで、3年後に確実に戻るなら、空き家のまま持ちこたえる判断にも合理性があります。430万円前後の負担と引き換えに、住み慣れた家に戻れます。
転勤を繰り返す職種なら、話が違う
数年ごとに異動がある職種の場合、今回をしのいでも次が来ます。同じ判断を、定年まで何度も繰り返すことになります。
| 転勤の回数 | 空き家で持ちこたえた場合の累計 | そのときの築年数 |
|---|---|---|
| 1回(3年) | 430万円前後 | 築5年前後 |
| 2回(6年) | 860万円前後 | 築8年前後 |
| 3回(9年) | 1,290万円前後 | 築11年前後 |
9年経つと、家の価値は新築時の8割程度になります。支出は積み上がり、資産は目減りしていきます。この構造は、耐えれば解決するものではありません。
転勤が前提の職種でどう考えるかは、自衛官の持ち家は転勤でどうなるかでも扱っています。定年の早さという別の要素が加わりますが、判断の構造は共通しています。
転勤で持ち家をどうするか、判断する順番
- 借りている金融機関に、転勤時の扱いを確認する。貸せるのか、条件は何か
- 今その家がいくらで売れるかを、複数の不動産会社に査定してもらう
- ローン残債と売却見込み額を比べる。上回るのか、下回るのか
- 空き家のまま置いた場合の年間費用を計算する
- 転勤が1回で終わるのか、繰り返される職種なのかを考える
1番目と2番目は同時に進められます。とくに2番目を先に済ませてください。売却額が分からないと、3番目以降が全部計算できません。
査定を依頼した時点で売却が決まるわけではありません。金額を知ったうえで、空き家にすることも、やはり貸すことも選べます。
売主査定を頼むと、売る方向に押し切られませんか。
編集部断って構いません。転勤で迷っていると伝えれば、その前提で話が進みます。むしろ金額を知らないまま数年放置するほうが、選べる幅が狭まります。
転勤で持ち家を貸したくない場合のよくある質問
住宅ローンのある家を勝手に貸すとどうなりますか?
契約違反になります。住宅金融支援機構は財形住宅融資について、無断で賃貸したり居住しなくなった場合は融資金の全額を一括して返すことになると明記しています。民間の住宅ローンでも自己居住が前提であることは共通しているため、貸す前に金融機関へ確認してください。
転勤中でも住宅ローン控除は受けられますか?
家族が住み続けるなら継続します。家族全員で転居して人に貸す場合や空き家にする場合は、住んでいないため受けられません。留守管理の期間中は残高証明書が送られてこないと明記されています。
退去時の修繕費は借りた人が払うのではないですか?
故意や過失で壊した部分は借主の負担ですが、経年変化と通常損耗の修繕費は貸主の負担です。国土交通省のガイドラインで区分が定められており、借主負担分も経過年数に応じて減額されます。
転勤から帰任したら必ず家に戻れますか?
普通の賃貸借契約では、貸主から更新を断るのに正当事由が必要です。帰任するという理由だけでは認められないことがあります。期間を区切って戻りたい場合は定期借家契約を使います。
貸さずに空き家にするのは損ですか?
収入がゼロで支出だけが続くため、金額だけ見れば負担は大きくなります。ただし修繕や入居者対応の手間はありません。転勤が短期で終わることがはっきりしているなら、選択肢として成り立ちます。
転勤までに家を売り切れますか?
一戸建ての売却は、売り出しから引き渡しまで平均で3〜6か月かかります。内示から異動まで1〜2か月の場合は間に合いません。査定だけでも早く済ませて、間に合うかどうかを判断してください。
売却額がローン残債に届かない場合はどうなりますか?
不足分を自己資金で用意するか、金融機関と相談することになります。まず残債証明書で正確な残高を確認し、査定額と比べてください。差額が分かれば、取れる選択肢がはっきりします。
まとめ:貸したくないという判断には根拠がある
- 住宅ローンのある家を無断で貸すと契約違反。一括返済を求められる
- 転勤なら留守管理などの手続きがあるが、事前の申出が必要で期間にも上限がある
- 貸すと住宅ローン控除が止まる。年15万〜25万円が消える
- 経年劣化と通常損耗の修繕費は貸主の負担。長く貸すほど持ち出しが増える
- 普通借家では、帰任しても戻れないことがある
- 迷っている間に価値は落ちる。10年で約2割、20年で約4割
貸さないと決めたなら、次に確かめるのは売却額です。その金額とローン残債の差が分かれば、売るのか空き家にするのかを数字で決められます。査定を受けても売却が決まるわけではないので、転勤の内示が出た時点で確認しておいてください。
出典:住宅金融支援機構「(財形住宅融資のみ)転勤などで一時的に住めなくなったとき」/国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」/国土交通省「定期建物賃貸借(定期借家制度)」/国土交通省 不動産情報ライブラリ 不動産取引価格情報(2021年〜2025年成約分)
