この記事でわかること
- 共有名義の家を売るのに、誰の同意がどこまで必要なのか
- 1人が反対したときに取れる4つの手段
- 自分の持分だけを売ると受取額がいくら下がるのか
兄弟3人で実家を相続した。誰も住む予定はないのに、1人が「まだ売りたくない」と言って話が止まったまま2年が過ぎている。その間も固定資産税は3人で分けて払い続けている。
共有名義の家は、共有者が1人でも反対すると売却できません。持分の多い人が押し切ることもできず、9分の8を持っていても、残り9分の1の人が首を縦に振らなければ家ごと売ることは不可能です。
ただし、打つ手がないわけではありません。自分の持分だけを売る、共有物分割請求をする、といった方法があります。金額は下がりますが、止まったままにするよりは動きます。
この記事では、共有名義で何をするのに誰の同意が必要かを整理し、反対する人がいる場合の手段を、受け取れる金額の差とあわせて説明します。
共有名義の家は全員の同意がないと売れない
やることによって必要な同意が違う
共有物に対してできることは、行為の種類によって3段階に分かれています。
家ごと売ることは「処分」にあたり、共有者全員の同意が必要です。持分の割合は関係ありません。
持分が多くても押し切れない
賃貸に出すといった管理行為なら持分の過半数で決められますが、売却は別です。持分の9割を持っていても、残り1割の共有者が反対すれば売却できません。
これは所有権を守るための仕組みです。持分は小さくても、その人の財産であることに変わりはないためです。
誰が共有者かは登記事項証明書で確認できる
相続の登記が済んでいれば、法務局で取得できる登記事項証明書に共有者全員の氏名と持分が記載されています。オンライン請求なら1通500円、窓口なら600円です。
相続登記をしていない場合、名義は亡くなった方のままです。この状態では売れません。2024年4月から相続登記は義務化され、取得を知った日から3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。
1人が反対したときに取れる4つの手段
手段1:その人の持分を買い取る
反対している共有者の持分を、他の共有者が買い取る方法です。売却の話がまとまらない理由が「思い出があるから手放したくない」ではなく「価格に納得できない」場合、この方法で解決することがあります。
買い取るには当然お金が必要です。2,100万円の家の3分の1なら700万円が目安になります。
手段2:自分の持分だけを売る
自分の持分は、他の共有者の同意がなくても単独で売れます。持分だけを専門に買い取る業者があります。
ただし受け取れる額は大きく下がります。
買主から見ると、持分だけ買っても家を自由に使えません。他の共有者と協議しなければならず、住むことも貸すことも単独ではできないためです。そのぶん価格が下がります。
もう1つ、見知らぬ第三者が共有者として入ってくることになります。残された共有者との関係は確実に悪化します。最後の手段として考えてください。
手段3:共有物分割請求をする
共有状態を解消するよう、他の共有者に請求する方法です。まず話し合いを行い、まとまらなければ裁判所に共有物分割請求訴訟を起こします。
裁判所が命じる分割方法は主に3つです。
- 現物分割:土地を物理的に分ける。建物がある場合は現実的でないことが多い
- 賠償分割:1人が全部を取得し、他の共有者に金銭を支払う
- 換価分割:競売にかけて代金を分ける
話し合いがつかない場合、最終的に競売になることがあります。競売の落札価格は、通常の売却より2〜3割低くなるのが一般的です。訴訟には弁護士費用と1年前後の期間もかかります。
手段4:所在が分からない共有者がいる場合の制度を使う
共有者の1人と連絡が取れない、どこにいるか分からないという場合、2023年4月1日に施行された改正民法で新しい制度が使えるようになりました。
裁判所に申し立てることで、所在が分からない共有者の持分を他の共有者が取得したり、その持分も含めて第三者へ譲渡したりできます。それまでは所在不明者が1人いるだけで永久に動かせませんでしたが、解消の道ができました。
申立てには、その人の所在を調査した資料や、供託金の納付が必要です。弁護士か司法書士に相談してください。
話を進めるために最初にやること

まず家の金額を確定させる
共有名義の話し合いが止まる原因の多くは、金額が分からないまま議論していることです。「安く買い叩かれるのでは」「もっと高く売れるはずだ」という疑いが、合意を妨げます。
複数の不動産会社の査定額を並べて全員に見せると、話が進むことがあります。1社だけの金額だと「その会社が安く言っているだけでは」と疑われますが、3社が近い金額を出せば、それが相場だと納得しやすくなります。
査定は共有者の1人が単独で依頼できます。全員の同意が必要なのは売却であって、金額を調べることではありません。
維持費の負担を数字で共有する
売らずに持ち続けることの費用を、全員が把握していないことがあります。固定資産税、火災保険、草刈り、見回りの交通費を合計すると、地方の戸建てで年20万円前後になります。
3人で分ければ1人あたり年6万7千円。5年で33万円です。「売らない」という判断にも金額がかかっていることを共有すると、話し合いの前提が変わります。
誰が窓口になるかを決める
不動産会社とのやり取りを全員でやると話が進みません。代表者を1人決め、その人が情報を集めて全員に共有する形にしてください。
共有名義になってしまう典型的な流れ
相続のときに「とりあえず共有」にした
遺産分割の話し合いがまとまらず、法定相続分どおりに共有登記してしまうケースです。その場では公平に見えますが、売るときに全員の同意が必要になり、動かせなくなります。
相続の段階で分かっているなら、代償分割(1人が不動産を取得し、他の相続人に金銭を支払う)や換価分割(売って現金で分ける)を検討するほうが、後の負担は軽くなります。
共有者が亡くなって、さらに枝分かれした
共有者の1人が亡くなると、その持分がさらにその人の相続人に分かれます。兄弟3人だった共有が、次の代で7人、8人になることがあります。
人数が増えるほど全員の同意は取りにくくなります。共有状態は、放置するほど解消が難しくなる性質があります。
夫婦で共有していて離婚した
住宅ローンを夫婦で組み、持分を分けている場合です。離婚しても共有関係は自動的には解消されません。売るには双方の同意が必要で、ローンが残っていれば金融機関との調整も入ります。
共有名義の家の売却に関するよくある質問
共有名義の家は自分1人の判断で売れますか?
家ごと売ることはできません。共有者全員の同意が必要です。ただし自分の持分だけなら単独で売却できます。
持分が過半数あれば売れますか?
売れません。賃貸に出すなどの管理行為は持分の過半数で決められますが、売却は処分にあたるため全員の同意が必要です。
持分だけ売るといくらになりますか?
物件と業者によりますが、家ごと売った場合の持分相当額より大きく下がります。買主が単独で使えないためです。まず家全体の査定額を把握してから、持分売却の金額と比べてください。
共有者と連絡が取れない場合はどうすればよいですか?
2023年4月に施行された改正民法により、裁判所への申立てで所在不明の共有者の持分を取得したり、その持分も含めて譲渡したりできるようになりました。弁護士か司法書士に相談してください。
共有物分割請求をすると必ず競売になりますか?
なりません。話し合いで解決すればそこで終わります。裁判になっても、1人が全部を取得して他の共有者に金銭を支払う賠償分割が命じられることもあります。競売は最終手段です。
固定資産税は誰が払うのですか?
共有者全員が連帯して納税義務を負います。市区町村は代表者1人に納税通知書を送るため、その人がまとめて払い、他の共有者から持分に応じて回収する形が一般的です。
相続登記をしないまま放置するとどうなりますか?
名義が亡くなった方のままでは売却できません。さらに次の相続が発生すると共有者が増え、解消がより難しくなります。2024年4月から義務化されており、正当な理由なく3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象です。
まとめ:共有名義の家を売るには全員の同意がいる
- 家ごと売るには共有者全員の同意が必要。持分が9割あっても押し切れない
- 自分の持分だけなら単独で売れるが、受取額は半分以下になることがある
- 話し合いがつかない場合、共有物分割請求という手段がある
- 所在不明の共有者がいても、2023年4月施行の制度で解消できる
- 共有者が亡くなると人数が増える。放置するほど解消は難しくなる
話し合いを始める前に、その家がいくらで売れるかを確定させてください。金額が分からないまま議論しても、疑いが残って合意に至りません。査定は共有者の1人が単独で依頼できます。
